<インタビュー&公開稽古>「清竜人さんに断られたら違う演目にしようと思ってました」、月刊「根本宗子」旗揚げ10 周年のフィナーレを飾る舞台『今、出来る、精一杯。』12月13日より新国立劇場にて上演

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2019年、劇団旗揚げ10周年を迎え、その10周年を締めくくる記念興行として、2013年、15年と劇団の節目に再演してきた代表作『今、出来る、精一杯。』を音楽劇としてリメイクし、上演する根本宗子。

12月13日より幕を開けるこの舞台の稽古場にて、11月某日、音楽監督と出演もする清 竜人も同席して、インタビューに応えた。

根本はインタビューで、この作品をリメイクするうえで、清 竜人に出演をしてもらえなかったら、この作品は止めていたと話すなど、熱烈オファーをしていたと明かした。
清 竜人はこの舞台が初めての俳優業になるなど、清自身もこの作品に対して、特別な思いがあるようだ。

インタビュー後に行われた公開稽古では、元乃木坂46の伊藤万理華と大人計画の池津祥子を中心に、水橋研二などが絡んでいくシーンを展開。
また、清 竜人は坂井真紀とソファーに座っているシーンを公開した。

根本宗子&清 竜人インタビュー

月刊「根本宗子」の劇団旗揚げ10周年記念公演としてこの作品を選ばれた理由はなんですか?

根本)この作品が一番自分の体験を書いていて、自分の過去、どうして足が悪くなったのかみたいな話をしていて、当時の自分のプライベートのことも書いてるし、すごく私的なことで出来上がった芝居だったんですけど、それを今の私が演出したらどうなるんだろうなっていう気持ちと、過去作をリメイクする前提で台本を読み返した時に一番やりたいのがこの作品でした。

生きていくうえで割とずっと考えていることを書いている台本なので、あまり気持ちは今も変わっていないです。

“他人とは分かり合えない”っていう話を書いているんですけど、“分かり合えないと分かってからのその先の踏ん張り”みたいな気持ちを書いているかな。

今回、再々演になりますが、脚本は変えられていますか?

根本)結構変えようと思って手を入れ始めたんですけど、当時書いていた言葉の勢いみたいなものに今は勝てないところもあって。
キレイにまとめる力や演出していく力は昔より付いているんですけど、当時の本にはものすごくストレートにセリフが書かれているので、そこはあまり変えなかったですね。

今回の月刊「根本宗子」は、これまでの顔なじみの俳優さんが出演されていませんが、この記念公演に向けての考えがあったのですか?

根本)この1つ前にやった別冊「根本宗子」第7号『墓場、女子高生』で、今までやってきた人たちと今私が思っていることをやろうと思ってキャスティングしていて、今回はそれとは真逆な考え方にしようと思ってキャスティングしました。

企画が被らないようにしようという意図もありました。
あと単純に、いま興味がある方たちにお願いしました。

自分の年齢が上がってきて、昔一緒にやっていた俳優さんたちは自分と同世代が多かったので、それだけではない年齢の幅を持たせたかったりすると、全然違うキャストになった感じです。

今回のキャストとは、前から面識はあっていつか一緒にやりたいなと思っていたけど、ご一緒するのは初めてという方が多めですね。

今作のリメイクを上演するにあたり、清さんにお願いする以外の選択肢は無かった感じですか?

根本)無かったです。
断られたら、違う演目にしようと思ってました。
そもそも「安藤」という役を俳優さんに頼むつもりはありませんでした。
今回は音楽劇にしたいというプランがあって、それもあって、清さん以外という考えは無かったです。

この人とやりたいと思ったら、断られることを考えることはよくないと思うなので、断られたことはとりあえず考えないで(笑)、とにかくご一緒したいと伝えてみようと思いました。

清さんとは前からご一緒したいなって思いは長年あって、マネージャーさんとも「いつか清さんとやりたい」と話していました。
でもこれ!!っていう企画をまとめられるまではご一緒するのは違うなと思っていて、時が来た感じです。

清さんに音楽だけではなく出演もしてもらおうと思ったのはどうしてですか?

根本)この作品に音楽を入れるとしたら、どの役に寄り添った音楽が入るか、みたいなことを考えながら台本を読んだ時に、この「安藤」という役のセリフだったり気持ちを曲にしていくのが一番合うなと思って、その気持ちを歌う人と演じる人、そして歌詞と音楽を作る人がバラバラというのは私の中でしっくり来なくて。
全て一人の方にやっていただくと考えた時に竜人さんにやっていただきたくてお願いしました。

清さんは、根本宗子さんの存在はご存知でしたか?

清)もちろん存じ上げておりました。
今回のお話の前にも面識はありましたね。
一度ご挨拶をさせて頂きまして、仕事でご一緒するのは今回が初めてです。

根本さんの作品を観るのは今回がキッカケに映像を見たのが初めてですか?

清)そうですね。『今、出来る、精一杯。』の前作と前々作公演をDVDで初めて拝見しました。
印象は、根本さんが出てるなぁ~って。ご本人が出演されるんだなってビックリしました。

あとは、人間的なストーリーの演目だったので、ヒリヒリとした気持ちで拝見しました。

清さんは実際に俳優をやられて、難しいところや面白いところはありましたか?

清)基本的には全部面白いです。
誰かの作品に入れる経験が本当に初めてで、今までは自分がプロデュースしたもの、自分の作品の中にキャラクターとして自分を落とし込んでいくのが主でしたので、誰かが書いたセリフを読むとかキャラクターになるとか、世界観に入っていくのは全てが新鮮で楽しいです。

全てが初めての経験なので難しい事ばかりですけど、根本さんとはこの作品についてお会いしてお話した時に、自分はそもそもミュージシャンでアーティストであるので、役者としてのキャスティングであれば僕の個性を必要としてくれているのであれば嬉しいし、ご一緒したいと思っていますとお伝えしました。

難しさはありつつ、僕がやるからこそ意味があるようなパフォーマンスが出来たらいいな思いながら、日々稽古をしています。

根本さんから見た、清さんの俳優としての良さはどこにありますか?

根本)そのままで居れるところ。セルフプロデュースの天才ですから。
当たり前ですが、何かやろうと思ってやるのが俳優で、そうではない状態の素材そのままでその役をやっていくのがあまり俳優には無い考え方なので、そういう人が座組に居てくださる方が作品を作っていく上で私は楽しいので、一番はそこですかね。

清さんが本格的に俳優をするのは今回が初めてだと思いますが、根本さんの作品が初めてというのはどうしてですか?

清)根本さんからお話をいただいたのは、根本さんの作品を観る前だったんですけど、根本さんと会ってから決めようかなと思っていました。
根本さんが書いたセリフを拝見すると、直感で判断することもありましたし、共通項も多かったりという些細なことはありますが、過去にも俳優としてのお仕事のオファーはありましたけど、そもそも興味が無くて敬遠していたこともありました。

今回はプロジェクトとしての興味はありますけど、それよりは根本さんと初めてお話をしてみて言葉の端々だったり考え方みたいなところにシンパシーを感じることがあって、そもそも僕でやりたいという強い気持ちを真摯にお話してくださったので、これは力を尽くしてみようって気持ちになりました。

女性に依存する「安藤」という役をどう受け止めていますか?

清)どうなんだろう?依存してそうに見えてました?

根本)(笑)
フェミニストなイメージが強かったです。
基本的に女性に優しい俳優さんを選ぶのは自分の中に元々あるんですけど、それが自分の台本に合っているなって。

いや、依存してそうには見えなかったです(笑)

清)まだ稽古が始まったばかりですけど、楽しいです。
やって楽しい役柄ではあるなって思います。

これまでにも舞台のオファーがあったけど断っていたと仰ってましたが、演劇に対する固定概念みたいなものはありましたか?

清)変な固定概念は無かったです。
ただ、絶対にやらないと決めていた訳では無く、すごくいいタイミングとやりたいなというお話があったら、いずれやることもあるのかなと思っていました。
それが今回ってことですかね。

ミュージシャンは毎回同じことをやるのが苦痛という人もいますが、舞台は同じことを繰り返します。清さんは如何ですか?

清)どうなんでしょうね。
本番を迎えてみないと分からないですけど、すごくアドリブを入れ始めるかもしれないです(笑)

根本)袖から「やめて!」って紙を出してるかも(笑)

でも、アドリブと一言で言ってしまうとやりたい放題みたいなニュアンスが強いですけど、入れていくアドリブのセンスなのも台本にある中のキャラクターとご自身の人間像を重ねた上で言っていい範囲みたいなのが、現在稽古をしていて何となく大丈夫な気はします。

突拍子も無いことを言い出す俳優もいるじゃないですか(笑)
そういう事にはならないだろうなって。

稽古をしていて、今井(隆文)さんとかも台本に無いことを言ったりするんですけど、成立する範囲だし、言った方が良い時もあるので、昔みたいに一言一句間違わないでくれというのは無くなりました。

これまでは、一言一句間違わないでほしいと仰っていたのが変わってきたのは気持ちの変化があったのですか?

根本)やる俳優さんにもよるんですけど、作っている稽古の中でもこの役は崩してもOKだけど、この役は崩さないでほしいみたいな時もありますし、一言一句セリフが決まっている中で自分の感情を処理することが物凄く長けている俳優さんもいれば、少し演出家に寄せる方が上手くいく方もいるし、やる人と座組によりますね。

自分の気持ちも変化してきたこともありますし、より俳優とコミュニケーションをとるようになったから気付いたのかもしれないです。

前は誰がやっても同じ間で、同じセリフでやってほしいというのが強かったので。
今はあまり自分が書いたセリフを100%信じなくなったのだと思います。

あとは客席への伝わり方ですかね。
この俳優さんの口から出る音として、私が書いたものを言っている方が良いか、ご本人の言葉にしてもらった方が良いかというのを稽古で判断していっています。

物凄くテンポのいいコメディーだと誰かが変えるとテンポが作れないので、そういう時は変えない方がいいという考えは変わっていないんですけど、今回みたいな作品だとそんなに一言一句ってこだわらなくていいかなって考えています。

清 竜人25のライブでは、ミュージカルのような要素もありましたけど、演じる意識はありましたか?

清)清 竜人としてやっているので、変にキャラクターを作りこんでやる気負いは無かったですけど、一夫多妻のコンセプトがあったのでそれに沿うようにある程度はコーディネートしてました。

お二人とも、音楽を聴かない人や演劇を見ない人に向けて、割とエンタメ寄りの作品を作られていて、それはお二人の共通語なのではないかと思いましたが如何ですか?

清)僕がエンターテイメント思考になったのは、「清 竜人25」の時から少しずつ意識をし始めて、元々は作品を作って世に提示し始めることが初めての経験だし、良いものを作りたいという意識が強くなってきました。
ターゲットはマスに向けてというよりは近い業界に向けてとか、耳の肥えた人に評価してもらって一人前だ、みたいな価値観に捕らわれすぎた時期もあったんですけど、少しずつ視野も広がってきて、よりたくさんの人に興味を持ってもらえるような創作をしようと心掛けています。
まぁ、年齢を重ねてきたのが一番大きいかもしれないです。

今回の作品は、どんな人に観てもらいたいですか?

根本)私は常に演劇をあまり観ない人に間口を広げたいがために演劇をやっているところが強いです。
今回の新国立劇場でやっているとなると「ザ・演劇」みたいなイメージがある人も多いと思うんですよ。
劇場に対して、固い演劇なのかなとか思っている人も居たり、チケット代も安くはないですから手を出しづらいところもあると思うんです。

そこで生で人がやっていて、さらに生で演奏が入っていてみたいな事って、テレビや映画とは味わう物が違うし、普段劇場に来ない人が何を感じて帰っているのかが凄く気になります。
いまはツイッターなどで感想が見やすくなっているので、初めて観た人がどう思ったかが、分かりやすいじゃないですか。
その人たちがどう思ったからって、作り方の根本が変わることは無いですけど、でもやはりそういう人の言葉は結構大事にしてます。

清)考え方は根本さんと同じで、すごく大げさな言い方をするならば、根本さんだったら演劇、僕だったら主戦場は音楽ですけど、音楽というカルチャーに対して無関心な層が統計的にも増えてきているなかで、そもそもエンターテイメントのメインストリームだった音楽が少しずつ端っこに追いやられている現状がデータであります。
そのシーンに身を置く人間としては狭まったシーンの中でどうにか食いつないでいく発想ではなく、誰からお願いされた訳では無いですけど、ある種の使命感を持って少しずつカルチャーを広げていくのがプロとして持つべき感覚なのかなって最近は強く思っています。

ある種、自分のファンに向けて物作りをしていないというか、ファン以外の人間に向けて物作りをすることが大事かなって考えています。

アーティストと観客の垣根を低くしたいと思われているように感じますが、如何でしょうか?

清)時期やプロジェクトにもよりますが、その距離感を図るのは難しくて、異種格闘技のようなもので適切な距離じゃないと良いストレートを打ち込めないから、良い距離を常に探っていますね。
離れ過ぎちゃうとパンチが届かなくなるので。

根本)「言葉にしていく力」が、自分が演劇を作っていると感じるのは、演出家はそれが仕事だから当たり前にそこそこ長けていて、そもそも俳優にその能力がある人がもっとあっていいなと。
なんで言わないんだろうなって思った時に、すごく抑圧された環境で芝居を作らないといけない俳優もいる訳ですよね、演出家が絶対で。
絶対って思っちゃってるからそうなるし、本当に絶対と思っている演出家もいるし、そういうのがイヤだなって思っていて、なるべく俳優との距離をフラットにして俳優が色々と言いやすい現場を作っていくことをここ何年か考えていて、自分も絶対だとは思っていないし、私も良いと思っていたことを明日になって「違うかも」って思う事もあるし、1ヵ月稽古をしていたら変わっていくのが当然。

「これは作品の意図と違うかもしれないから感想が言えない」って人も居るじゃないですか。
別に違ったっていい訳で、何を思ったかということをお客さんも感想が言いやすい演劇の方が良いなって思っているところがあって、それもあって『根本宗子の面談室』(※)っていうイベントをやって、アンケートで感想が書かれていてトークすることもあります。

自分ではそう思って作って無かったけど、こんな届き方をしているんだとか、そんな人を巡り巡って救っていたみたいなことも意外とあったり。

この前やった舞台『プレイハウス』で、ちょっと男尊女卑に対して思う事とか、女が集団で戦うみたいなことを書いていて、それをGANG PARADEがやったら面白いかなって発想で何となく書いたシーンだったんですけど、女の人が言えない事、女の人が言ってはいけないんじゃないかと思っていることを舞台上で言っていることによって、すごく勇気が出たっていうギャンパレのファンの女の子の感想があって、伝える力をギャンパレが持っていたのも大きいし、そういう風な台本になっていたんだなって。
割とそういうことを書いてきたので、自分の中では当たり前になりすぎて、立ち返って考えていなかったので、改めて気付かされることがあります。
でもそれは、演劇を観たい層の人に届けたからな気はしています。

根本さんはファンとの距離は近い方ですよね?

根本)チェキを撮ったりすることもありますが、ここではやってもいいけど、ここでは違うみたいなことはあります。
オールナイトニッポンをやったことによって、イベントによって来られる層が違うので、そこで喜ばれることをやっていく。
面白がられるように、あまり「演劇人」にならないようにしているかもしれないです。

この作品は、根本さんの最近の作品とは違うように感じます。

根本)あまり私自身は分からないんですよね。
自分で書いていて昔と何が変わっているのか。
セリフの勢いがあるって言うのは、書いた時がケガをした年齢により近いので、今より記憶が薄れていない状況で書いているからという気はしています。
劇作がどう変わっていますかみたいなことは、あまり自分では意識していないです。
書いたその時に興味があることしか書けていないので。

根本さんはこれまでやりたいと思ったことを言葉にして実現させる力があると思っているのですが、根本さんの実現力・行動力というのはどこから来たものだと思いますか?

根本)言葉にしていくことを信じているので、やりたいことは言った方がいいと思っています。
言うタイミングを探ったり、いま言ったら無理だろうけど、ここだ!みたいなタイミングを探ることが好きだからですかね。

自分でプロデュースが出来て企画も考えているので、他のプロデューサーは考えないだろうなというものを考えていくことで演劇の間口を広げていきたいなと思って活動しているので、そういうところかもしれないですね。