<ステージレポ>演劇プロデュースユニット『セメント金魚』の第16回公演「ℓ(える)」
3月6日より両国スタジオ・アプローズにて全10ステージを上演した演劇プロデュースユニット『セメント金魚』の第16回公演「ℓ(える)」が千秋楽を迎えた。
「サラリーマンを劇場に!」をコンセプトに、出演者4人で25役を見事に演じきった。
劇場に入ると、今公演のパンフレットが配られた。
「Cemekipedia~セメ金観劇百科事典~」と書かれており、これ以上の説明は無く、単語とその意味が記されている。
例えば【手と手を合わせて幸せ】
説明:かわいい女の子が「お手手のしわとしわを合わせてしあわせ、な~む~」という仏壇のCMをご存知だろうか。「知ってるわよ~、♪おぶつだ~んのは・せ・が・わ、でしょ?」と得意気に口ずさんだあなた、実はこのCMに地方色があることをご存知か?
「お手手のしわとしわを合わせてしあわせ、な~む~」までは全国共通だが、この後、兵庫では「お仏壇のはまや~」大阪では「お仏壇のたきもと(滝本仏光堂)」などとなるのだ!これは「はせがわ」が取引のある別商圏の複数の仏壇店のCMで使われるため、「はせがわ」の部分がその仏壇店名に代わるというもの。
ちなみに女の子は「しあわせ少女」というキャラクター名があり、初代は「ゆうこちゃん」二代目は「たばさちゃん」三代目は「ゆうかちゃん」である。
と、一見どうでもよいと思いがちだが、以外にも「へぇ~」と納得してしまう内容が書かれており、観劇中に分かるのだが、このパンフレットに書かれている単語が台詞で使われていた。
劇中、発したこの単語に対し特に説明をする訳でも無く、芝居は淡々と進んでいく。
芝居にありがちな敢えての説明はない。日常会話で強調して説明をすることは無いだろう。そこは会話として自然の流れを取り入れていた。
その為、古い言葉などで意味が分からない人向けに、このパンフレットが用意されていたのだ。
感激後に読み直すと、その時の台詞と上手い具合にシンクロし、シーンが思い浮かぶから面白い。
前作「える」に登場した神鳥居高校野球部による前説。本編が始まる。
とある区民センター。
サスペンス映画「ドッグオーナー殺人事件」の鑑賞会が行われていた。
会を催したのは作品のプロデューサーでもある東幹久(ひがしみく)。
東渾身の大作であったが、訪れたのは四十代の男(有場)と東の内縁の夫(田中)の二人きり。
有場は作品を観ず寝ていたようだった。
上映は盛り上がることもなく淡々と終わり、映画を語り合うティータイムへと移る。
有場も参加し、会費の300円を払おうとするが一万円しかもっておらず、お釣りをビニール袋に入った小銭と共に田中から渡された。ティータイムの主菓子で出されたアイス「Pino」。常温で置かれ解けかかっている。
田中の好物でリクエストされていた。
解けたPinoを美味しそうにすする田中であった。映画があまりにも駄作のため、話すべきネタもない。
どんよりと時間だけが流れる。
するともう一人の参加者、岡山から来た大宅が入ってきた。大宅にも主菓子のPinoを手渡す。ここで東が、内縁の夫である田中との関係を話し始める。
田中は喉頭がんを患い声を出すことを自制し、マスクをつけていた。その為に筆談で会話を。
残りの人生で喋られる数が決まっているといい、東は「彼の場合は残り500万語」と説明。この後、物語は進み、それに伴う回想が繰り広げられ、4人が色んな登場人物になっていく。
回想の場面転換も違和感なく、スーッと物語に引き込まれる。偶然集まったようにみえた4人だったが、それは偶然ではなかった・・・
内縁関係を続けること。
喉の病気を患ってしまったこと。
眠くなる映画を見ていたこと。
わざわざ岡山から駆け付けたこと。
それぞれに過去があり、そして今がある。中盤までゆる雰囲気だったのが、終盤に来て一遍する。
そして。。。富良野塾7期のにしやうち良が作・演出を手掛け、同じく5期のたむらもとこが居り、実力のある4人による濃い舞台に仕上がっていた。
演劇プロデュースユニット『セメント金魚』の第16回公演「ℓ(える)」
作・演出
にしやうち良
出演
田中允貴 たむらもとこ 伊藤俊彦 にしやうち良
日時
2018年3月6日(火) ~ 11日(日)全10ステージ
劇場
両国 スタジオ・アプローズ
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